読みものBlog — ・ 豆と抽出

瑞浪で、 スペシャルティコーヒーを。

スペシャルティコーヒー(スペシャリティコーヒー)。よく目にする言葉ですが、何を満たせばそう呼べるのかは、意外と知られていません。評価の基準、豆の個性を決める産地・品種・精製、焙煎、そして抽出。私たちが扱う3つの豆を例に、一杯ができるまでを順にたどります。

文・椿野 詩乃(comet coffee オーナーバリスタ)

カウンターで、細口のケトルから湯を注いでハンドドリップする椿野詩乃
抽出は、種子からカップまで続く工程の、最後のひとつ。

言葉のはじまり

「スペシャルティコーヒー」という言葉は、1974年、アメリカの生豆商エルナ・クヌッセン(Erna Knutsen)が業界誌『Tea & Coffee Trade Journal』のなかで使ったのが始まりとされています。特別な気候と土地から生まれる、風味のすぐれた豆を指す言葉でした。

英語では specialty coffee。日本語では「スペシャルティ」と「スペシャリティ」の二通りの書き方が見られますが、指しているものは同じです。日本の業界団体である日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)は「スペシャルティ」と表記していて、この記事もそれにならいます。

「80点以上」という物差しと、その先

スペシャルティかどうかを判断する手がかりとして、長く使われてきたのが点数です。アメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA。のちに欧州の協会と統合し、現在の SCA)が2004年に定めたカッピング(決まった手順で行うテイスティング)の評価票では、訓練を受けた評価者が100点満点で採点し、80点以上をスペシャルティの目安としてきました。

評価は液体だけではありません。焙煎前の生豆も、350gのサンプルに致命的な欠点豆(カテゴリー1)がひとつもなく、軽い欠点豆(カテゴリー2)が換算で5つ以内であることが、スペシャルティグレードの条件とされてきました。黒く変質した豆、発酵が進みすぎた豆、虫に食われた豆。こうした欠点豆はわずかでも味を濁らせるため、選別の段階で取り除かれます。

2024年11月、SCA はこの評価票に代わる新しい仕組み「Coffee Value Assessment(CVA)」を正式に採用しました。生豆の状態を見る物理的評価。香りや味、質感、後味を共通の言葉で記録する記述的評価。評価者の好みや印象を記す感性的評価。そして、認証や産地の追跡性、精製の情報といった、カップの外にある価値を見る外的評価。ひとつの点数にまとめるのではなく、四つの側面から豆を読む考え方です。

その背景には、SCA が2021年の白書で示した定義があります。スペシャルティとは、際立った「属性」によって認められ、その属性ゆえに市場で大きな付加価値を持つコーヒー、あるいはコーヒー体験である。属性には、味のような豆の内側のものだけでなく、産地や生産者、つくり方といった外側の情報も含まれます。80点という線はいまも目安として広く使われていますが、点数だけで豆を語る時代ではなくなりつつあります。

SCAJ の考え方 ― 種子からカップまで

日本では SCAJ が、飲む人が手にするカップの中の風味がすばらしく、その人がおいしいと評価して満足するコーヒーを、スペシャルティコーヒーとしています。そのために欠かせないとされるのが、From seed to cup(種子からカップまで)という考え方です。

栽培の管理、収穫、精製、選別、輸送と保管、焙煎、そして抽出。どこかひとつでも手を抜けば、カップの中の味は損なわれる。だから、すべての段階で一貫した品質管理が必要だ、という考え方です。カップの評価では、次の7つの項目を見るとされています。

  • カップのきれいさ ― 風味を濁らせる欠点や、雑味がないか
  • 甘さ ― よく熟した実に由来する甘さを感じるか
  • 酸味の特徴 ― 酸っぱさの強さではなく、明るさやみずみずしさといった酸の質
  • 口に含んだ質感 ― 舌ざわり、なめらかさ、重さ
  • 風味の特性 ― 産地や品種、精製に由来する個性がはっきりしているか
  • 後味の印象 ― 飲み終えたあとに残る余韻が心地よいか
  • バランス ― それぞれの要素が調和しているか

最後の工程が抽出であることは、私たちのような店にとって大事な意味を持ちます。どれほど良い豆でも、淹れ方ひとつで台無しにもなる。カップに注ぐところまでが、スペシャルティの仕事です。

豆の個性は、どこで決まるのか

ここからは、私たちが公式オンラインショップで扱っている3つの豆(2026年10月時点)を例に、豆の個性を形づくる要素を見ていきます。

  • ブラジル モンテアレグレ ― ミナスジェライス州。標高840〜1,250m。品種はカトゥアイとムンドノーボ。精製は酵母発酵ナチュラル。ミディアムロースト。ラムレーズン、キャラメル、チョコレート。
  • コロンビア パレルモ ― ウイラ県北部。標高1,350〜1,550m。品種はカトゥーラ、ティピカ、カトゥアイ。精製はウォッシュト。ミディアムライトロースト。オレンジ、アップル、ブラウンシュガー。
  • エチオピア シダモ(デカフェ) ― 標高約2,000m。品種はエアルーム(在来種)。フルウォッシュトで精製し、マウンテンウォータープロセスでカフェインを99%以上除去。ミディアムライトロースト。ベイクドアップル、さつまいも、はちみつ。

標高 ― 寒さが、実をゆっくり育てる

コーヒーの木は、赤道をはさむ熱帯の一帯で育ちます。そのなかでも標高の高い土地では、夜の冷え込みで実がゆっくりと熟し、豆の密度が高くなる傾向があります。密度の高い豆は、酸の質が複雑になりやすい。3つの豆の標高は、ブラジルの840mからエチオピアの約2,000mまで、1,000m以上の幅があります。

品種 ― ティピカとブルボンから

世界で育てられているアラビカ種の品種の多くは、ティピカとブルボンという二つの系統にさかのぼります。ブラジルの豆のムンドノーボは、ブラジルで見つかったティピカ系とブルボンの自然交雑種。カトゥーラはブルボンの突然変異で、木が小さく育つのが特徴です。カトゥアイは、そのムンドノーボとカトゥーラをブラジルの研究機関で掛け合わせて生まれました。ブラジルの豆の二つの品種は、いわば親子の関係にあります。

エチオピアは、アラビカ種のふるさととされる土地です。森や庭先には、品種名のつかない在来の木々がいまも数多く育っていて、それらをまとめて「エアルーム(heirloom)」と呼びます。ひとつの品種に絞られないことが、エチオピアの豆の香りの複雑さにつながっているとも言われます。

精製 ― 果実から種を取り出す方法

コーヒー豆は、コーヒーチェリーと呼ばれる、赤や黄色に熟す果実の種です。収穫した実から果肉や、種のまわりのぬめり(ミューシレージ)を取り除き、乾かす。この工程を精製(プロセス)と呼びます。同じ農園の同じ品種でも、精製が変われば味ははっきり変わります。

ウォッシュト(水洗式)

果肉を取り除いたあと、水槽などでぬめりを発酵させて洗い流し、種だけを乾かします。果肉の影響を受けにくいため、味の輪郭が澄み、産地や品種がもともと持つ酸がまっすぐに出やすい方法です。コロンビアの豆の、オレンジやアップルのような明るい果実味がその例です。

ナチュラル(乾燥式)と、酵母発酵

実を果実ごと乾かし、乾いてから外皮と果肉を取り除きます。乾燥のあいだに果肉の糖や発酵の影響を受けるため、熟した果実を思わせる甘さや、重さのある質感が出やすい方法です。

ブラジルの豆は、このナチュラルに酵母による発酵を組み合わせた「酵母発酵ナチュラル」です。発酵にかかわる微生物を人の手で選び、発酵をより狙いどおりに進めようとする試みで、近年取り組む生産者が増えています。ショップでは、その味わいをラムレーズン、キャラメル、チョコレートと表しています。

このほかに、果肉だけを取り除き、ぬめりを残したまま乾かすハニー(パルプドナチュラル)などの方法もあります。

デカフェ ― 生豆の段階でカフェインを抜く

デカフェは、焙煎する前の生豆からカフェインを取り除いたコーヒーです。エチオピアの豆は、フルウォッシュトで精製した生豆を、マウンテンウォータープロセスと呼ばれる方法で処理しています。水と活性炭のフィルターを使ってカフェインを取り除く方式で、有機溶剤を使いません。この豆では、カフェインの99%以上が取り除かれています。夜や、カフェインを控えたいときにも、エチオピアらしい香りを楽しめます。

焙煎 ― 色の濃さより、豆の持ち味

生豆は淡い緑色で、香りもほとんどありません。熱を加えると水分が抜け、糖とアミノ酸が反応するメイラード反応や、糖のカラメル化が進んで、あの色と香りが生まれます。焙煎を深くするほど、酸はおだやかになり、苦味とコクが増していきます。

3つの豆の焙煎度は、ブラジルがミディアム、コロンビアとエチオピアがミディアムライトです。並べてみると、果実の明るさを持ち味とする二つがやや浅め、キャラメルやチョコレートのコクを持ち味とするブラジルが少し深め、という関係になっています。焙煎度は色の好みというより、その豆のどの持ち味を前に出すかで選ばれるものです。

焙煎したての豆は、内部にたまった炭酸ガスを少しずつ放出しています。ショップの豆の賞味期限は製造日からおよそ6か月で、直射日光と高温多湿を避けた常温での保存をおすすめしています。

抽出 ― 濃度と収率という物差し

抽出は、挽いた豆の成分を湯に溶かし出すことです。その出来を測る物差しが二つあります。ひとつは濃度(TDS)。液体にどれだけの成分が溶けているかの割合です。もうひとつは抽出収率。使った豆の重さのうち、何%が液体に溶け出したかを示します。

SCAA の時代から、濃度1.15〜1.35%、抽出収率18〜22%が「ゴールドカップ」と呼ばれる目安として使われてきました。収率が低すぎると酸っぱく薄い味に、高すぎると苦味や渋みが目立つ味になりやすい。挽き目、湯温、時間、豆と湯の比率は、この濃度と収率を動かすための手段です。

一方で、カリフォルニア大学デービス校の研究チームが118人の消費者に、条件を細かく変えて淹れたコーヒーを飲み比べてもらった研究では、好みは濃度と収率の広い範囲に分かれていました。目安はあくまで出発点で、正解はひとつではない。だからこそ、豆と飲む人に合わせて淹れ方を調整する意味があります。

家で淹れるなら

ショップの豆には、おすすめの淹れ方を添えています。豆15gに湯240ml、湯温92℃、抽出時間2分30秒。豆と湯の比率はおよそ1対16で、ゴールドカップの目安(湯1Lに豆55g)よりも、豆をやや多めに使う設計です。

味が酸っぱく薄いと感じたら挽き目を細かく、苦く重いと感じたら粗く。変えるのは一度にひとつだけにすると、違いがつかみやすくなります。

comet coffee の豆選び ― 好きな一杯を見つける楽しさを

スペシャルティコーヒーに馴染みがあってもなくても、自分の好きな一杯を見つける楽しさを届けたい。豆を選ぶときに私たちが大切にしているのは、豆の個性、飲む方にとっての親しみやすさ、そして抽出方法との相性です。

この土地には喫茶店のモーニング文化が根づいていて、深煎りの苦みやコクに親しんでいる方が多いと感じています。そこで、新しい味にも無理なく親しんでいただけるよう、浅煎りから中煎りのなかでも中浅煎りを多めに揃え、お客様に好まれることの多い中南米のウォッシュトを中心に選んでいます。

一方で、発酵という精製方法に特徴のある豆も用意しています。飲み慣れた味を求める方にも、新しい個性を探す方にも、選ぶ楽しさがあるように。オンラインショップの3銘柄でいえば、コロンビアが中南米のウォッシュト、酵母発酵ナチュラルのブラジルが発酵に特徴のある豆にあたります。

抽出ごとに、豆を選ぶ

日々のドリップには、フードとの相性を考えて、スイーツに合わせやすい中深煎りのオリジナルブレンドを主に使っています。ときには、シングルオリジンもお出しします。

ハンドドリップには、美濃焼のドリッパー「ORIGAMI(オリガミ)」を使っています。内側に並ぶ20本のひだ(リブ)がペーパーとのあいだに隙間をつくり、湯の抜け方が変わります。円錐形のペーパーにも、底の平らなウェーブ型のペーパーにも合わせられるドリッパーです。

カウンターに置かれた、銀色のエスプレッソマシンとポルタフィルター
カフェラテやカプチーノは、このエスプレッソから。

エスプレッソは、細かく挽いた豆に高い圧力をかけて、短い時間で抽出する方法です。濃度はドリップの何倍にもなり、まったく別の飲みものになります。使うのは、単体でカラメルのような甘みと深いコクを楽しめて、カフェラテではミルクの甘みを引き立てるブレンドです。今日のカフェラテやカプチーノ、アメリカーノは、このエスプレッソからつくります。

水出しアイスコーヒー(コールドブリュー)には、その抽出方法で持ち味を引き出せる豆を選び、前日から仕込んでいます。そして、どの一杯にも使う水は、中島醸造の仕込み水です。水と味の関係は「酒蔵の町・瑞浪と「仕込み水」」で詳しく書いています。

瑞浪で、スペシャルティコーヒーを

瑞浪のコーヒースタンド comet coffee では、スペシャルティコーヒーを中心に、ドリップとエスプレッソの両方でお出ししています。今日のコーヒー、今日のカフェラテ、カプチーノ、アメリカーノ、コメットのハンドドリップ、そして水出しアイスコーヒー。その日に淹れている豆のことは、カウンターでお気軽にお尋ねください。

淹れ手は、オーナーバリスタの椿野詩乃です。Lonich でのバリスタ、Tokyo Coffee Festival の運営、TYPICA GUIDE のサポートと、スペシャルティコーヒーの現場で経験を重ねてきました。

飲み慣れたおいしさを入口に、コーヒーの楽しみが少しずつ広がっていく。知識や経験にかかわらず、誰も置いていかれない店でありたいと思っています。

店があるのは、1702年創業の酒蔵・中島醸造の敷地のなか。岐阜・瑞浪の酒蔵カフェで、ご神木の中庭を眺めながら一杯をどうぞ。お菓子と合わせるなら「瑞浪で、ケーキとスイーツを」もあわせて。家で楽しむ豆は、公式オンラインショップでお求めいただけます。

よくある質問

スペシャルティコーヒーとは何ですか?

風味がすぐれ、生産から抽出までの品質が管理されたコーヒーのことです。SCA(スペシャルティコーヒー協会)では、訓練を受けた評価者が100点満点で80点以上をつけたものが長く目安とされてきました。2024年には、点数ひとつではなく四つの側面から豆の価値を読む評価の仕組み(Coffee Value Assessment)が正式に採用されています。日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)は、種子からカップまで(From seed to cup)すべての段階での一貫した品質管理を求めています。

「スペシャルティ」と「スペシャリティ」は違うものですか?

同じものです。どちらも英語の specialty coffee を書き表したもので、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)は「スペシャルティ」と表記しています。

瑞浪でスペシャルティコーヒーを飲めるカフェはありますか?

岐阜県瑞浪市の comet coffee 瑞浪では、スペシャルティコーヒーを中心に、ドリップとエスプレッソの両方でお出ししています。酒蔵・中島醸造の敷地内にあり、コーヒーは蔵の仕込み水で淹れています。

comet coffee 瑞浪では、どんな豆を選んでいますか?

豆の個性、飲む方にとっての親しみやすさ、抽出方法との相性を大切にしています。中浅煎りを多めに揃え、中南米のウォッシュトを中心に、発酵という精製方法に特徴のある豆も用意しています。日々のドリップはスイーツに合わせやすい中深煎りのオリジナルブレンドが中心で、ときにはシングルオリジンもお出しします。エスプレッソには、カラメルのような甘みと深いコクのあるブレンドを使っています。

ナチュラルとウォッシュトでは、味はどう違いますか?

ウォッシュト(水洗式)は果肉とぬめりを取り除いてから乾かすため、味の輪郭が澄み、産地の酸がまっすぐに出やすい方法です。ナチュラル(乾燥式)は果実ごと乾かすため、熟した果実のような甘さや重さが出やすくなります。comet coffee のオンラインショップでは、コロンビアがウォッシュト、ブラジルが酵母発酵ナチュラルです(2026年10月時点)。

家でコーヒーを淹れるときの、豆と湯の量の目安は?

comet coffee のおすすめは、豆15gに湯240ml、湯温92℃、抽出時間2分30秒です。酸っぱく薄いと感じたら挽き目を細かく、苦く重いと感じたら粗くして、ひとつずつ調整してみてください。

参考にした資料

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※ 豆の産地・品種・精製・焙煎度・風味・おすすめの淹れ方は、2026年10月時点の公式オンラインショップの商品情報にもとづきます。店で淹れる豆とは異なる場合があります。